障害者新聞

目と耳の障害者が作った新聞です。社会の本質を書いています。

知的障害者に対して日本で一番優れた福祉を提供しているのは長崎県である。

長崎新聞社の記者たちが執筆した「居場所を探して-累犯障害者たち-」を読み終えた。

素晴らしい本だった。


☆☆☆


記者たちは情熱的に累犯障害者についての記事を執筆なされていた。

読書していて彼らに敬意を持ったし、自分の住んでいる都道府県に誇りを持っている、その気持ちが伝わってきた。


累犯障害者とは犯罪を繰り返す障害者のことだ。主に軽犯罪を繰り返す知的障害者のことである。

前科10犯や前科15犯など、彼らは犯罪を繰り返す。


支援者がおらず、前科のついた障害者を過半数の家族は受け取り拒否するからだ。

よって、刑務所から出所後、空腹になり仕事も住む場所も食べるものもないため、窃盗罪や無銭飲食を繰り返す。


人生の半分以上を刑務所のなかで過ごし、刑務所という残された最後の福祉施設で、やっと差別のない心安らぐ居場所を得ていたのである。

日本の福祉は食べ物のないそして仕事も得られない一番苦しい目に遭っている前科持ちの知的障害者を、犯罪を犯した汚い障害者だというレッテルから、受け取り拒否してきた歴史がある。


障害が重く、もっとも苦しい、もっとも生きづらい、刑務所にしか居場所がない人たち。

そんな一番辛い思いをしてきた人たちを、福祉は受け取り拒否し続けてきたのだ。

えり好みし、一番の生活困窮者を助けず、何が福祉か!


そんななか、たった一つだけ特異な県が日本にはあった。長崎県である。日本最高の福祉施設のある県だ。

犯罪を犯した障害者のすべてを受け取ってきた、一度も受け取り拒否などしてこなかった福祉施設のある県こそが長崎県なのだ。


そう、日本最高の福祉施設長崎県雲仙市社会福祉法人南高愛隣会が運営する「雲仙・虹」という知的障害者にとっての楽園が、この県にはあるのだ!

記者たちは自分たちの県に誇りを持っている。

この日本の福祉史上最高の施設が自分たちの県にあることを、誇りに感じているのだ。


時は2011年。東京都霞ヶ関にある検察合同庁舎19階、次長検事室。ここで検察と福祉のトップ会談が行われていた。

検察側は最高検次長検事、小津博司。小津は最高検のナンバー2だ。


そして小津が呼んだ福祉のトップはなんと!東京都の人間でも大阪府の人間でもなかった。

1970年代からコロニー雲仙を運営し、犯罪を犯した知的障害者を受け入れ続けた長崎県雲仙市にある南高愛隣会の理事長、田島良昭を長崎から呼び寄せたのである。


このとき、完全に検察側、国側は、日本一優れた知的障害者の福祉をしている県を、長崎県だと認識していたのである。

他の県の福祉施設は前科者の受け取りを拒否し続けてきた。


それなのに、長崎県だけは、この県だけは犯罪を犯し、空腹で食べ物もない知的障害者を全員受け入れてきたのである。

なんという県か!そして、なんと優れた都道府県なのか!長崎県すごいぞ!


検察はいま解体の危機に立たされていた。

大阪地検特捜部が無実の罪で厚生労働省元局長の村木厚子を逮捕し、冤罪であることが判明し、世論から大バッシングを受けていたためである。


検察改革をしなければならない瀬戸際に立たされていたのである。

だから東京都の霞ヶ関まで検事のナンバー2が「会いたい」と言い、長崎県から呼び寄せたのである。


この検察改革において福祉のトップ、南高愛隣会理事の田島良昭が提唱したのが「新長崎モデル」だったのである。

そう、福祉のトップは日本の法律すら作っていたのだ。ぶっちぎりの能力者だったのだ。


ここでは、長崎県が全国に先駆けて独自に行っていた先駆的福祉改革の「長崎モデル」と、この最高検に提出した長崎モデルの発展形である「新長崎モデル」について説明していく。


長崎モデル

長崎モデルとは、厚生労働省のモデル事業として作られた累犯障害者の支援制度の一つである。

発祥の地、長崎県から名称が名づけられている。


累犯障害者はなぜ犯罪を繰り返すのか?

それは刑務所を出所後、仕事も住む場所も、食べるものもないため、貧困と孤独から犯罪を繰り返すのだ。


この刑務所の出口に焦点を置き、刑務所を一人で出所させないこと。

刑務所を出所することになる知的障害者に対して、福祉の人間が刑務所まで出向き、ウチの施設に来ませんか?

と、話しかけてくれる制度を長崎モデルという。


他の県は前科持ちの障害者なんてお断り!である。

それが長崎県は福祉の人間がわざわざ刑務所まで出向いて、ウチの福祉施設に入りませんか?

と誘ってくれるのである。


なんという県か!なんと慈愛に満ち溢れた県か!

ぶっちぎりで長崎県知的障害者累犯障害者に対する福祉において、先駆的な都道府県であることの証左なのである。


新長崎モデル

新長崎モデルとは知的障害者に対する支援策の一つだ。長崎モデルが刑務所の出口から福祉へと繋ぐ支援だった。

逸れに対して新長崎モデルとは、刑務所への入り口から、知的障害者への福祉に関与するという支援策のことを言う。


具体的には軽犯罪を繰り返し、検事から起訴され裁判に発展したとき、この裁判に福祉のプロが関与し、障害者側の弁護に着くという行為を言う。

挙動不審で上手く会話ができない被告人(犯罪を犯した人間)に対して、長崎県では福祉の人間が関与してくれるのだ。


たとえば、警察・検事がこの被告人は反省していない。罪の意識が全くない。

と訴えたとき、長崎県ではどんな弁護を行うのか?


それはまず弁護士が「この人少し会話が上手くできなくておかしい?」と思ったとき、判定委員会という民間の知的障害者のプロフェッショナル集団に相談を持ちかけるのである。


判定委員会は日本最高の福祉施設、南高愛隣会の幹部と、知的障害者に詳しい弁護士、精神科医らで構成されている。

一人ひとりの被告人と面談し、場合によっては検査することで「障害がある」ことを、医学的に発見してくれるのである。


悪意による犯罪か?それとも障害による犯罪なのか?

によって、裁判での判決結果が異なってくる。障害が原因による犯罪なのであれば、刑務所は不向きな場所なのである。


なぜなら更正されることがないからだ。

10回20回と犯罪を犯し、刑務所への出入りを繰り返している障害者が複数いることからも、福祉のプロフェッショナルがいない刑務所での知的障害者発達障害者の更正は、不可能なのである。


だから史上最高の福祉集団、南高愛隣会の福祉施設、雲仙・虹が障害者を引き取ることを前提として、弁護を開始するのだ。

するとどうなるのか?


一般的な裁判で障害があることすら発覚していない場合、実刑判決が着く裁判であっても、福祉のプロフェッショナル集団が私たちの施設が責任をもって被告を更正させます。


と弁護し、実際に裁判中引き取ってしまい、犯罪を犯した知的障害者が雲仙・虹でパンを焼いたり、そうめんの箱を組み立てる作業風景をビデオで録画し、裁判長に提出することで刑が軽減されるのである。

具体的には執行猶予が付くのだ。


よって、刑務所へ行く必要がなくなるのである。

だって刑務所へ行っても知的障害者のプロがおらず、更正されず、何度も犯罪を繰り返し、裁判で実刑判決が確定し、刑務所送りにしてきた裁判長は、この繰り返される一連の行為を、不毛だと感じているからである。


それなら犯罪がいけないことだと丁寧に知的障害者に理解できるよう何度でも教え続ける福祉施設のほうが、被告は更正してくれるのではないか?

と考えるのだ。


つまり、他の県だと刑務所行きが確定し、刑務所への出入りが繰り返され累犯障害者化するのに対して、長崎県では、なんと刑務所への入り口から支援が開始され、犯罪を犯した障害者を福祉施設が喜んで引き取り、緩やかな障害者の更正と、彼らの居場所を提供してくれるのである。


日本一の知的障害者福祉の先進県、長崎県では、数ある障害のなかで一番辛い思いをしている知的障害者を、そして犯罪を繰り返す累犯障害者を福祉が引き取り、受け入れてくれるのである。


他の県は受け取り拒否するのに、だ。ふふふ。

長崎モデルは、厚生労働省が全国各地に「地域生活定着支援センター」を設置することで、全国規模の福祉になりつつある。


だが、この裁判時に福祉の人間が関与し、被告に障害がないのかを調査し、罪を犯した知的障害者を刑務所へ送らず、福祉が更正する新長崎モデルは、全国へはまだ普及していない段階だ。


長崎県が先駆的に行っている福祉なのである。それを長崎県の記者が大変に誇らしく感じている。

私たちは正しいことをしている。自分の住む街を誇らしく感じている。


それが伝わってくる書籍がこの「居場所を探して」なのである。凄まじい本である。あと終盤から鬼の文豪「山本譲司」さんが登場する。

ていうか、最後に山本譲司さんのインタビューが10ページほどもある。


障害者の犯罪に対して関心のあるかたは、是非、凄みのある本ですので、購入してもらいたい。

読んでて大変におもしろかったです。


また、長崎県に対して私も関心を持ちました。

1度しか行ったことがないので、こんなにも障害者福祉に力を入れている県だとは知りませんでした。


知的障害者長崎県に住むと差別が少なくて快適に住めると思う。良い県だと感じたし、良い書籍を読むことができて、大変に満足しております。

鬼の文豪、山本譲司さんの本に対しての私の読書感想文は、こちら↓です。

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