いま、行動経済学の書籍「予想通りに不合理」を読んでいる。
☆☆☆
かなりおもしろい書籍である。
特にアンカリング理論の考察が秀逸である。
人間は300万円の自動車を購入するとき、車内を20万円の革製のレザーシートにするのにちっともためらったりはしない。
しかし自宅のソファーを買い換える際には、15万円のソファーにするか20万円のソファーにするかで大変熟考するのである。
車より多くの時間くつろぐ家のソファーの場合、20万円だと大金なのに、なぜ車内の20万円のソファーを安く感じてしまうのだろうか?
それはアンカーがあるためだと説く。
そのアンカー(指標となる固定された価格)とは自動車のことだ。
自動車の価格が300万円だとすると、車内のレザーシートのオプション価格20万円は、安く感じてしまうのだ。
自動車の購入価格がたったの6.7%しか増えないためだ。アンカーは自動車にあるのだ。
しかし、ソファー単体で20万円として販売されていると高く感じてしまうのだ。
もう一つ価格に対しての行動経済学における考察がある。価格策定モデルの話だ。
著者はMIT(マサチューセッツ工科大学)でマーケティング・心理学の講義をしている行動経済学の教授である。
ある授業の日、MITの学生の前で彼は丁寧に詩を歌ってみせた。
マーケティングとまるで関係のない人文科学の詩である。
詩を読み終え55名の学生に2枚のプリントを配った。1枚のプリント用紙には
「10ドル支払うことで、この詩の続きを講堂で聞くことができますが、聞きますか?」
と書かれている。
これを半数の学生に配る。もう半数の学生には
「10ドル受け取ることで、この詩の続きを聞いても良い人はいますか?」
と書かれており、それを配ったのだ。
当然のことながら、10ドル支払って続きを聞きたいという学生がいたのに対し、10ドル受け取れるなら詩の続きを聞いてやってもいい。
という学生も現れた。何が言いたいのか?
言葉のニュアンスを変えるだけでお金を受け取ることもできるし、支払う側に立たされることもあるのだ。
商品の見せ方。
つまり、人間社会においては、マーケティングすることによって、商品の品質は変わらないのに受け取れるお金の額が変わってしまうのだ。
次に、ファミリーレストランのメニューでハンバーグメニューが2つしかないときと、3つある場合を考えてみよう。
100名が食べに来たとき2つのメニューの場合、こう選択されたとしよう。
お店の店長は高いほうのメニューをもっと売りたいため、マーケティングの専門家にメニューの相談をした。
マーケティングの専門家はどんな助言をしただろうか?
実話なのだが非常におもしろい。
マーケティングの専門家たちは店長に、おとりの高級メニューを一つ作ってください。とアドバイスしたのだ。
つまりはこうだ。
するとそれぞれのメニューの売れ行きはどうなったのか。
こうなったのだ。
数値とかメニューとか書籍をパクるのはあれなのでオリジナルで書いてるけど、顧客単価は爆発的に増えたのである。
それまでは
- 720円×32人=23,040円
- 580円×68人=39,440円
- 23,040円+39,440円=62480円
だったのが、マーケティング会社に相談し、メニューを一つ増やしたことで
- 950円×2人=1,900円
- 720円×70人=50,400円
- 580円×28人=16,240円
- 1,900円+50,400円+16,240円=68,540円
このようにメニューを変えただけで、売上が1割も増えたのである。
嘘くさいだろうか?
こちらがファミレス国内トップシェアのガストのハンバーグメニューである。
■これ
出典:ガストのハンバーグメニュー(https://www.skylark.co.jp/gusto/menu/menu_category.html?cid=101)
ガストが一番売りたいメニューはどれだろうか?
ガストが一番売りたいのは、利益率の高い左下のメニュー「チーズINハンバーグ」だ。
上段の3つは利益率がさらに高いがおとりメニューだから、注文されることはまずない。
自動車を購入するときを思い出そう。自動車の車内のレザーシートだと人は20万円払うのだ。
同じようにメニューを開き、ハンバーグメニューを見たとき、最初999円のハンバーグが目に映る。
ガストでのハンバーグは900円から700円台なのかな?
とお客様は思うのだ。ここでお客のなかにハンバーグの価格がアンカリングされる。
しかし下段を見ると、なんだもっと安いハンバーグメニューがあるじゃないか。
お得なメニューを見つけたぞ!安いじゃないか!
ということで、利益率の高いチーズINハンバーグを皆注文するのだ。
もっともコスパの高い449円のハンバーグ・ステーキや549円のてりたまハンバーグよりも、さらに割高な599円のチーズINハンバーグを皆注文するのだ。
ガストの1番の人気メニューがこのチーズINハンバーグなのである。
どこの会社も従業員が1,000人もいればそのうち1人か2人は頭の良い奴がいて、行動経済学的にメニューを策定し、利益の最大化に励んでいる。
どこの会社もやっている行為だ。
しかしそれに気づく人間はスマホをピコピコ弄っているだけの一般人には分からない。
税込み600円を超す割高な価格の商品を買わされていることに誰一人気づかず、経済学の通りに社会は動き、経済学を知っている人間が富を収奪している。
そのことに愚かな庶民は誰一人気づかず、ドリンクバーを追加注文し、ファミレスを出る際には800円以上支払うのだ。
スーパーへ行けばハンバーグは200円で売っているから製造原価における材料費の割合(原価率)と、店舗の賃料と人件費と、製造間接費(電気代とか水道光熱費とか諸経費)
を考察する人間はファミレスの客に1人もいない。
自炊すれば200円で済むのに、800円払うことにおかしいと感じる人間は誰一人いない。
それはメニュー表の一番目立つ場所に載っている999円のハンバーグと比べると、お得感があるからだ。
999円でアンカリング(ハンバーグの価格が固定化された)ためだ。
当たり前の話である。
読書をしている人間はメニュー表を見ただけでそれに気づいてしまう。
気づいても声には出さない。ただ考察を終えるだけである。
総合原価計算を終え、やってきた注文メニューを食すのみである。
適当にガストのサイトへ行っただけで、あ、これおとりメニューか。とわかる。
そんなことを考察していた、ある日の生活保護者なのでした。