障害者新聞

目と耳の障害者が作った新聞です。社会の本質を書いています。

【盲ろう者の帰省】家族で焼肉を食べる。

先月、栃木へ帰省したとき、事前に帰ることを伝えていたから、晩御飯は焼肉だった。

前回帰ったときも焼肉だった。ごちそうである。


☆☆☆


私は耳と眼の同時障害者(盲ろう者)である。
21歳のときに障害手帳を取得した。


15歳までは健常者だった。
ホットプレートに豚肉とキャベツとしいたけともやしとソーセージを入れて、焼いていた。


私は盲ろう者になってから常に考える癖をつけていた。
ホットプレートのうち私の近くにだけ、焼き加減のちょうどいいお肉と野菜が、自然と置かれていた。


父を見ると、うなづいて、食べなさいという表情をしていた。
私が眼があまり見えないから、私の近くに焼きあがったお肉と野菜を置いてくれていることを、刹那的に理解した。


私は考察し、哲学していた。
栃木県北部のキャベツとしいたけはなぜこうも美味いのだろうと思っていた。

さらに、母の手の動きをじっと見ていた。


母はなにも食べないでいた。
お野菜やお肉をホットプレートに入れるのが母の役目だった。


私たちが肉や野菜を食べ続けているため、母はその分、ホットプレートに肉や野菜を並べるのに時間をとられ、焼肉を食べている時間がないことを、私は瞬間的に知った。


母を見ると、もっと食べなさいという表情でうなずいていた。
母は最期まで「ごちそう」のはずの焼肉を一つも食べなかった。焼肉のほとんどを私が食べた。


焼肉が終わると、家族はホットプレートの上に焼きそばを入れて、焼肉であまった野菜と焼きそばの麺をミックスさせ、即席の焼きそばを作った。


私はもうお腹がいっぱいだったから、あまり焼きそばは食べれなかった。母は焼きそばを作り終えてから、笑顔で白米ご飯の上に焼きそばを乗せ、にこにこした表情で、こちらを見ながらその食べ物を食べていた。


焼きそばには肉がほとんど乗ってなかった。
野菜と焼きそばの麺と、白米ご飯だけである。


折角のごちそうを母は食べることができず、私はその分あきれるくらいに、肉を大量に食べた。家族とはこれが当たり前なのだろうか。


定年を越した父に聞くと、年金はどんどん減っていて、昭和の頃よりたくさん支払ったのに、取り分が減っている。

と話していた。


年金の受取額はどんどん減っていく。
65歳の定年を迎えても、働かなければ、生活がままならなくなる。


一方で日本でも1兆円を越す億万長者がポツポツと出現している。
社会は著しく劣化し、治安が悪化し、格差が拡大し、地方は疲弊し、過疎化が進み、日本が劣化していることを肌で感じることができる。

問題の根源は何なのだろう。


と私はお腹いっぱいの状態で哲学していた。
企業は毎年当期純利益が過去最高を更新し、その分、毎年非正規社員が増加し、正社員が減少し続けている。


非正規社員はいつ解雇されるか分からず社内でビクビクしている。
一人当たりの労働生産性がいつ解雇されるか分からない緊迫感と努力しても昇進・昇給できないあきらめ感から、高まることがない。


本来、全力を出せばもっとたくさん働くことができるのに、どんなに努力しても昇進・昇給ができず、絶対に報われることがないことを知っているから、自分の能力の3分の1程度の仕事量をこなし、あとは解雇されないようビクビクしている。


全力を出せば労働生産性が増加し、GDPが増加し、給料も本来なら増えるはずである。


だけど、日本の非正規社員制度では努力は絶対に報われない制度だから、誰も全力で働こうとはしない。それは一生懸命の努力が全く評価されないためであり、一生懸命働いても、周りから白い眼で見られ、笑われ、馬鹿にされるだけだからである。


逆に、一度正社員になってしまうと努力しなくてもクビになることはない。日本の正社員制度は社員をクビにすることはできないからだ。


非正規社員はあきらめ感から全力で働かず、正社員の一部はダラダラと働いている。そのため、仕事がなくならず、優秀な社員は夜中まで仕事をすることになる。


さらに、非正規社員は雇用不安定から精神が壊れてしまい、無差別大量殺人事件を繰り返す。


職場でエッチなサイトをダラダラ見ているだけの正社員がいる。
努力してもしなくてもクビにもならないし、昇進もあきらめている。


そのため、努力するのは意味が無いというインセンティブ(意欲)が働いている。努力しても昇進できないのは、成果を出した一握りの社員しか、成果主義では出世できないためである。

幹部社員の人数が減り、利益はさらに増加する。


日本はグローバル化成果主義を取り入れ、一握りの優秀な社員しか出世できなくなった。全員が努力していたのに、努力した社員ではなく、努力して結果を出した社員だけが出世できるようになったのである。

そのため、人件費が削減でき、企業の業績はさらに伸び、内部留保はさらに増加することになった。


だけど、努力してもまったく報われないことを知ったその他大勢の社員は一生懸命働くことを、もうあきらめてしまった。


日本が先進国中最低の生産性を誇る理由が”これ”である。
能力が低く、努力をしなくなった正社員を、日本の企業は解雇規制によってクビにすることができない。


そのため能力の低い正社員をクビにして、その代わりにたくさん努力する優秀な非正規社員を正社員にするということをする企業はほとんどいなくなった。


なぜなら、正社員はクビにできないため、定員を増やせないからである。


よって、非正規社員は努力が報われず、収入が伸びず、さらに頑張っても正社員になれず、いつ解雇されるのかも分からず、景気の調整弁にされ、精神が不安定になる。


不安定な精神では恋愛することもできないから、非正規社員の結婚率は正社員の4分の1である。この精神的不安定さが未婚化・晩婚化・少子高齢化を生んでいる一因である。


さらに努力が報われないから、一部の非正規社員が精神を壊してしまい無差別大量殺人事件のような猟奇的殺人事件を起こすことになる。


この劣悪な制度を作っているのは誰なのか。
一握りの超富裕層以外全員が不幸になる、この社会システムを構築しているのは誰なのか。


企業はプレイヤーであり市場参加者である。
ルールを作っているのは企業でないことは確かである。そう、この劣悪な制度を作っているのは「日本国」である。


焼肉を食べながら、母の笑顔を見ながら、私は年金の受取額の減少と子供が減り続ける現象の根源を哲学していたのであった。


これが盲ろう者の知性であり、神々から与えられた私のギフト(才能)なのであるということを知覚していたのである。