東芝が文系スペシャリスト社員を育てず、ジョブローテーションでゼネラリストだけを育てた損失は何だったのか?
ゼネラリストとは総合職のことであり、「広い範囲での知識や実務のできる人」のことである。
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企業において、広い範囲でなんでもできる人がいると非常に便利である。
他社との交渉も円滑にできて、社内での経営資料や報告書も作れて、現場との折衝も一人でできてしまうからである。
ゼネラリストは大変に使い勝手のよい社員である。
東芝は債務超過に陥った。債務超過とは企業の全財産を売却しても、借金(借入金)を返済できない状況のことである。
これの元凶は2つある。
一つは東日本大震災以降の原子力発電事業の業績不振である。そして、もう一つが、米国の原発会社ウェスチングハウス(WH)を6,000億円以上支出して買収したことである。
原子力発電事業の業績不振は東日本大震災以降、一時的に各国で原発の建設が中断されたため仕方の無い部分がある。
だけど、債務超過へ決定的な影響を与えたのは、ウェスチングハウスに対するデューデリジェンス(資産査定)業務だったのである。
ウェスチングハウスは3,000億円以下の価値しかない会社だった。それを三菱重工との買収競争に負けたくないがために実際の価値の2倍の金額を支払ってしまったのである。
だから減損会計によって、3,000億円の赤字が発生し、一気に倒産に近づいたのだ。
なぜ、3,000億円の価値しかない会社を6,000億円で買ってしまったのか?
その理由は2つである。一つは東芝経営幹部のメンツである。
三菱重工に買収競争で負けたくないという驕(おご)り高ぶった感情から、何としてでも買収したいという感情が先走り、精密な資産査定業務を行えなかったことが挙げられる。
二つ目の理由は文系スペシャリスト社員を育ててこなかったことである。
1,000億円を越える買収において、デューデリジェンスのプロフェッショナルがいなければ、正確な資産査定をすることは不可能だ。それは、資産規模が巨額すぎて高度な専門性を必要とするためだ。
財務担当のスペシャリストが社内にいなければ、資産の価値を精査し、監査することなど不可能なのである。
ジョブローテーションにより文系スペシャリスト社員を育てない。社員をゼネラリスト(何でも屋)としてしか育てないから、プロフェッショナル社員が育たないのだ。
最高の文系社員というのはぶっちぎりである。日本電産が超優良企業を安い価格で買収できているのは、文系の財務プロフェッショナル社員が資産査定業務で精密な価格査定を行えているからである。
ソフトバンクが爆発的に利益を生んでいる理由も、将来的に膨大な利潤が発生することを予測して、Yahoo!Japanや中国のアリババ株を安いうちに資産査定し、買っているためだ。
ちなみに、ソフトバンクは105億円アリババ株を購入したが、その資産価値は現在6.7兆円に達している。
アリババ株を売却すると売却益は6兆6,895億円となり、株価は638倍まで上昇している(2016年度6月アリババ株4%売却前)。
もう一度言おう。文系スペシャリスト社員はぶっちぎりである。このように、文系を大切に育てて来た会社のほうが実は好業績なのである。
日本電産は300億円の価値ある会社を100億円で買うことができる。東芝は文系プロフェッショナル社員を育ててこなかったから、3,000億円の価値しかない企業に6,000億円支払い
減損会計によって3,000億円もの巨額赤字を生み出し、債務超過へ落っこちたのである。
日本の大企業は文系社員をプロとして、スペシャリストとして育ててこなかったツケを、今ここに来て途方も無い損失額で支払っているのである。
社員を大切にしない、育てない企業は滅ぶ。良い教訓である。
ちなみにNTTドコモも文系スペシャリスト社員がいないため、4回連続で企業買収に失敗している。
優秀な企業なのか業績の悪い企業なのか、原発の施設やオフィスビルがいま現在幾らなのか?が、文系スペシャリスト社員がいないからきちんと査定できず、分からないのである。
そのツケは恐ろしく巨額の損失を生んでいるのに、大企業の経営者は目先の利益ばかりを追い求め、人材育成という金のかかる長期的な視野に立った経営戦略を立案できないのである。
だから何時まで立っても同じ失敗を繰り返し続け、スペシャリスト(専門家)の重要性に気づいていないのである。
哀れで愚かな思考回路だと思う。